今回は一軒家の売却を振り返りたいと思います。
売主様とはどのように出会ったのですか?
別の物件を現地販売していた時に、Aさん(売主様)から話しかけてきてくださいました。近所にお住まいのようで散歩されていたんです。
雑談していて、年だから売って老人ホームに入りたいんだよと。その時はそれで話が終わったんですが、私も不動産営業マンなので(笑)、後日訪問したんです。
さすが営業マンですね(笑)
もちろん商売っ気はありましたけど(笑)、Aさんの人柄に惹かれたんですよね。なんか気になってしまって。だから「今すぐ売りましょう」ではなくて、色々聞かせていただくつもりで伺いました。
その後、何回か訪問させていただくうちに具体的な話になってきたんですが、昔の家でしたから隣家と調整しなきゃいけないことも出てきて。隣家の方は昔Aさんにお世話になったから協力したいと言ってくださったんです。
一軒家だと関係者が多いですよね。感情も絡んでくるでしょうし。
私道も含まれていましたし、前面道路を壊す時にご近所の方にも協力していただく必要があります。テクニックのところは測量士や司法書士など専門家に任せればいいですが、一番は人間関係です。所有者だけではなくて、ご家族や周りにいる方も含めて足並みを揃えなくてはなりません。
まずは一軒一軒挨拶から始めました。一人ひとりに合ったお話しだったり、配慮すべきことを考えながら進めました。幸いみさなん協力的だったので良かったです。でも実は地上げ業者も絡んでいて、Aさんは怖がっていらっしゃったので、私が間に入ってうまくまとめていきました。
地上げ業者ですか。一人暮らしならなおのこと怖いですよね。ところで老人ホームの件はどう進めたんですか?
色々な老人ホームを紹介してくれる専門家を紹介しました。
Aさんは高齢とのことでしたが、長年住んだ家を離れるのは簡単じゃないですよね。
「売るのを止めたい・・・」と言われることもありました。でも現実を見ると、このまま一人で住んでいてヘルパーさんが週に1・2回来るといったことにも限界を感じられて、その堂々巡りというか。
私はそういう時間も必要なことだと思っています。もしそれで売らないとなってもいいと思うんですよ。最期は家で迎えたいという人もいますから。何十年住んだ家には色々思い出がありますし、それを短期で考えて結論を出すというのは簡単な事ではありません。印鑑を押したらすべてがスタートしてしまいますから。
高齢になって新しい人生をスタートすること自体がストレスですよね。いいほうに転べばいいですけど。
共同生活への不安もあったと思います。環境の変化に適応できる人もいますがそうではない人もいます。それから私たちが家に来ることも嬉しかったんじゃないかと思うんです。それもなくなりますし、漠然とした不安がこみ上げるというのがあったと思うんです。
結局家は売却されたのですか?
はい。紆余曲折ありましたが、一緒にレストランで食事をしたのもいい思い出です。引っ越しも手伝ったりして、その後更地になったときには私も感傷的になりました。
更地になった写真をAさんに送り、後日移転先のホームに伺ったところ、毎日三食栄養のあるご飯を食べて、健康的な生活を送っているせいか、髪や肌がツヤツヤになっているのを見た時は、やっぱりこれで良かったんだな、と確信しました(笑)。
仕事を振り返っていかがですか?
高齢で一人暮らしだと、いつかは整理しなくちゃいけないのはわかっていてもその一歩がなかなか出ない方は多いです。Aさんはあのまま家にいることもできましたが、石油ストーブで火事が起きたりしてもおかしくない状況でした。家の中には荷物がたくさんありましたから。
Aさんと出会ったのもご縁ですし、仲良くしていただいたこともあって途中からは心配でしたよね。だから私が全部最後までやらなきゃいけないという責任感がありました。
色々あって時間はかかりましたけど、不動産営業としてだけ考えたらもっと効率よく仕事をしなくちゃいけないのかもしれません。でも私は人と人の触れ合いを大切にしたいというか、Aさんには営業に関係ないところまでお手伝いさせていただいたので、それにはむしろ感謝しています。
ここには書けないこともたくさんありますけど、私の営業としての道を教えて下さった方だと思います。