「髪を切る」だけじゃない。心に触れる美容を届けたい。
【il cuoree 代表 阿部 亮輔様】
2026.02.062025年10月に、中目黒に美容室『il cuoree』をオープンした代表の阿部 亮輔様にお話を伺いました。
まずは、阿部さんが美容師になろうと思ったきっかけから教えてください。
祖母が美容師で、母や叔母、いとこも美容師という家庭で育ちました。身近にはいつも道具があり、美容の会話があり、仕事をしている姿がありました。
祖母はとにかく職人気質の人でした。戦後まもなく美容師になり、19歳で開業。自宅兼サロンで朝から晩までお客さんが途切れることなく、サロンワークだけでなく結婚式のヘアメイクの出張にも出向いていました。亡くなる直前まで現役で、実に65年間、美容師として仕事を続けていました。そんな環境だったので、美容師を目指すことに迷いはほとんどありませんでした。小学校の文集にも「将来は美容師になる」と書いていたほどです。
実際に美容師として働き始めて、イメージとのギャップはありましたか?
思っていた以上に下積みは長く、華やかなイメージとは現実に大きなギャップがありました。実際の仕事は、アシスタント業務や掃除などが中心で、技術がなければ声もかからない。「やりたい仕事ができないもどかしさ」を強く感じていました。都内の大手サロンで22年間働き、新店舗の立ち上げや運営にも携わりましたが、決して順風満帆だったわけではありません。途中で長く伸び悩む時期もありました。当時は技術の意味を深く考えず、がむしゃらに手を動かしてばかりで、心と技術が乖離しているような感覚があったと思います。デビュー後も思うように結果が出ない時期が続き、「技術さえ身につければうまくいく」と信じていました。けれど30歳手前になって、それだけでは通用しないのだと、はっきり感じるようになりました。
阿部さんは訪問美容にも力を入れておられるんですよね。
大きな転機になったのは、27歳の時に参加した東日本大震災のボランティアでした。技術や接客にもある程度自信がつき、「このまま続けていくだけでいいのだろうか」と、どこか疑問を感じていた時期でもありました。
被災地で髪を切っていた時、厳しい状況にある方から「ありがとうね。あんた、いい床屋になるよ」と声をかけられたんです。床屋じゃないんですけど(笑)。
でもその一言で、「自分にも、誰かの役に立てることがあるんだ」と初めて実感しました。トレンドや評価を追いかけるだけでは、人を本当に幸せにはできない。人の役に立つことには、まったく別の価値があるのだと気づかされた瞬間でした。それまでの僕は、「トレンド」「技術」「評価」ばかりを追いかけていました。けれどその時初めて、「自分の仕事は、人の役に立つためにあるんだ」と心から感じたんです。
そこから訪問美容を始めました。サロンに来られない高齢の方や、身体が不自由な方のもとへ伺い、髪を切るだけでなく、話を聞き、生活の一部に関わる。その中で、「美容師という仕事は、こんなにも深い仕事だったんだ」と何度も感じるようになりました。「待つ美容」だけでなく、「伺う美容」「届ける美容」がある。そう考えるようになり、約10年前から本格的に訪問美容の道へ進みました。サロンに来られない方々の人生や生活背景に触れる中で、美容師の仕事は「生活に寄り添うこと」なのだと、僕の中で大きく価値観が変わっていきました。
独立を考えたきっかけは何だったのでしょうか。
正直なところ、独立するつもりはまったくありませんでした。経営にも興味はなかったですし、やりたい美容サービスができていればそれで十分だと思っていたんです。ただ、訪問美容で出会う高齢の方々から「小さくてもいいから、店を持ちなさい」と、何度も声をかけられるようになりました。そして決定的だったのは、長くお世話になっていた訪問美容のご利用者さんが倒れてしまったことです。その方に、「ちゃんと形として残った姿を見せたい」「ここまで来られたのは、あなたのおかげです」と伝えたい。そう思った時、腹を決めました。また訪問美容を続ける中で、自分が本当に大切にしたい美容や働き方が、少しずつ明確になってきていました。サロンワークと訪問美容、そのどちらも妥協せずに続けるためには、自分の拠点が必要だと感じたんです。
こうして、「独立したいから独立した」のではなく、大切にしたい美容と向き合った結果として独立という選択にたどり着きました。
エリアや規模など、どのような条件で物件を探されましたか?
場所選びに関しては、正直そこまで強いこだわりはありませんでした。それよりも、「自分がやりたい美容サービスがきちんとできる環境かどうか」を何より大切にしていました。
一人で運営する予定だったので、条件として考えていたのは、1階のテナントであること、人通りがあること、駐車場があること、そして車椅子の方や高齢の方でも無理なく来られること。派手さや広さよりも、長く続けられる無理のない規模感を重視していました。
この物件に決めたポイントはなんでしたか?
今年で75周年を迎える商店街で、この通りには約150店舗ほどの個人商店や飲食店が並んでいると聞きました。特に、昔から続く床屋さんが今も賑わっている様子が印象的で、地域の方々に長く愛され、商店街がしっかり生きている街だと感じました。人と人とのつながりが残っている。その空気感が、祖母が営んでいた“街の美容室”と重なって感じられたんです。
そうした雰囲気を見て、直感的に「ここなら無理なく続けられる」と思えたことが大きな決め手です。立地や規模感、街の空気感が自分の目指すサロン像と合っており、背伸びしすぎず、等身大でスタートできると感じました。
ウルクルに出会ったきっかけを教えてください。
独立を迷っている時に、たまたま長くお世話になっている先輩に道で会ったんです。軽く相談したら「ウルクルに相談してみたら?」って紹介してもらいました。実際にお会いして話を進めていく中で、知人や先輩、後輩もクボタさんにお世話になっていると知って、「これは縁だな」と感じましたし、より安心感を持つようになりました。
融資や契約の過程で大変だったことはありますか?
最初にお話したときにボス(クボタ)が真っ先に「まずはお金の部分固めましょう」って(笑)独立なんて考えてなかったから資金もやっぱり不安なところもあって。
クボタ)機器の選定も兼ねてメーカーショールームにて確認と政策金融公庫対策の打ち合わせとメーカー担当の協力で資金調達の相談をしましたね。
契約後もかなりピンチもありました…(笑)電気の契約内容が書面と実際で違っていて、工事のために東電の技師や内装工事の会社と3週間も調整することになったり、期間が延びたことで工賃も上がったり、しかも分電盤を確認したら工事自体が不要ということが分かったり…この物件を申し込んだ時も実は2番手で、1番手には別の法人さんが申し込んでいた状況ですが、クボタさんが貸主さんにファイナンスが固まってるので月内で決済できる点や、地域に根付く訪問ありの美容室なので地域への貢献と社会的意義を説明して後押ししてくれたり、1番手の会社の業態分析をして比較してくれたりと全面的にサポートしてもらいました。
他の不動産会社にも問い合わせはされていたんですか?
不動産会社とは7社ほどやり取りしました。ただどこの会社も物件の紹介ぐらいで、開業後の使い方や運営まで踏み込んだ話は少ない印象でした。より親身に、スピード感を持って対応してくれる方は決して多くないと感じました。
物件は相当数見ていたので、気づけば自分でもかなり詳しくなっていました(笑)。
ウルクルのサポートについてどう思われていますか?
退職日だけを先に決めて、準備期間は半年。正直、物件も決まっていない状態で退社日だけが迫ってきて、かなり焦っていました。ただ、不動産会社を選ぶ基準は、実績や規模ではありませんでした。僕は昔から印象をすごく大事にしていて、「結局は人で決める」タイプなんです。
最初にコバヤシさんに電話した時も、とにかく感じが良くて、熱心で、レスポンスが早い。問い合わせをしたら、すぐに電話をくれたんです。その日はたまたま土日で、僕もサロンワークをしながらなので15分くらいしか時間がなかったんですが、取れなかった電話がいくつかある中でその電話だけはなぜか取れて。今思えば、タイミングも含めて、ちょっと縁を感じていました。
そこからは、とにかくテンポが早かったですね。次、次、と話をつないでくれて。独立の準備をほとんどしていなかったので、正直、物件の見方も全然分からなかったんです。でも物件紹介だけではなくてもう一歩先に進んだ細かいところ、外側じゃなくて真ん中の部分というか。「ここはこうですね」「美容院だったらここは少し不安かもしれませんね」と、ざっくばらんに教えてくれました。
連絡の時間も不規則でしたが、どの時間帯でもきちんと対応してくれて、物件紹介だけでなく、融資の流れやお金の不安、周辺の人の紹介まで一緒に考えてくれました。途中からは「どんな物件になっても、コバヤシさんにお願いしたい」という気持ちが、ずっとありました。
最終的に決めた理由は、実績でも規模でもなく、「この人にお願いしたい」それだけでした。
オープンまでに大変だったことを教えてください。
全部です(笑)。内装、手続き、融資、判断の連続で、正解が分からない中で決め続けるのが一番大変でした。費用面もかなりシビアで、本当はやりたいことを我慢した部分も多いです。本当はやりたい内装やデザインもたくさんありましたが、今回はぐっと我慢し、ミニマムな形で進めました。デザイナーさんや工務店さんにはかなり無理をお願いしたと思いますが、それでも最後まで愛情を持って建築してくださり、本当に感謝しています。正解が分からない中で判断を重ねる必要がありましたが、その一つ一つが「自分の店をつくっている」という実感にもつながりました。
お店のコンセプトについて教えてください。
「ここに来るとよく眠れる」
「寝に来た」
そんな風に言ってもらえる場所にしたい。
忙しい人を、根本から整えたい。だからヘッドスパを中心に、睡眠や自律神経、脳疲労にアプローチするサービスを考えています。美容師として戦うというより、“たまたま髪も切れる美容のお医者さん”そんな立ち位置を目指しています。
店名の『 il cuoree(イルクォーレ)』は、イタリア語で“心”を意味する言葉です。実はこの店名は、訪問美容で長くお世話になっている方に考えていただきました。「心を大切にする場所」「人の想いが集まる場所」という意味合いが、自分の目指す美容の在り方と重なり、この名前を選びました。また、ロゴは文字だけでなくデザインも含めて、娘が偶然ノートに描いていた落書きがきっかけになっています。店名を書いてもらい、形や雰囲気も含めて、そのままロゴとして採用しました。自分一人で決めた名前やロゴではなく、訪問美容で出会った方や家族など、周りの人たちに支えられながら、一歩一歩成長していく姿そのものを表しているようで、とても気に入っています。
オープンされた日がおばあさまの命日だったと伺っています。
最初から狙って合わせたわけでは全然なくて、準備を進めていく中で、「じゃあこの日でいきましょうか」って決まった日が、あとから振り返ったら祖母の命日だった、という感じでした。
独立を決めた時も、「ちゃんと形になった姿を見せたい」っていう気持ちが、どこかにずっとありました。だから、オープン日が祖母の命日だったと親に聞いたときは、驚いたというより「ああ、そうなんだな」って、すごく自然に受け止められたんですよね。偶然なのかもしれないですけど、なんとなく、背中を押してもらっている感じというか、見守ってもらっているような感覚がありました。この日にスタートできたことは、自分の中ではひとつの区切りでもあって、同時に、「これから先もちゃんと続けていこう。」そう思わせてくれる出来事でした。
今後、お店を大きくしていく予定はありますか?
考えていません。一人でやるからこそできることがあると思っているし、必要としてくださる方にきちんと届くお店であり続けたいと考えています。美容室って、実は本音を話しやすい場所なんですよね。家族や友人には言えないことを、ぽろっと話してくれることも多い。一人サロンだから、静かに過ごしたい時は静かに、話したい時は話せる。その距離感がすごく大事だと思っています。
今後の目標としてはサロンワークと訪問美容の両立を続けながら、美容の可能性を少しずつ広げていくことです。
また、中目黒という街に受け入れていただき、この街で生きていくために、美容の枠を超えたイベントや地域貢献にも積極的に取り組み、街の活性化に少しでも役立てたらなあと考えています。来月も訪問美容のイベントを中目黒で行う予定です。
最後にこれから独立を考えている人へ、メッセージをお願いします。
理想を描くことも大切ですが、「無理なく続けられるかどうか」を基準に考えることが大切だと思います。背伸びしすぎず、自分のペースを守れる選択が、結果的に良いスタートにつながると感じています。何よりも、「大切なことを大切にする」こと。当たり前のことを当たり前に続けるのは、簡単なようでとても難しいです。愛情が届いていない場所はないか。その視点を、僕自身も常に持ち続けたいと思っています。技術やノウハウも大事だけど、最後は「心」だと思います。初心を忘れず、人に向き合えるかどうか。それが、巡り巡って奇跡を生むんじゃないかなと思っています。
<会社概要>
hair salon & 訪問美容
il cuoree/イルクオーレ
東京都目黒区上目黒2丁目43-7-101
TEL:03-6768-7702
店舗Instagram:https://www.instagram.com/ilcuoree.2025/
阿部様Instagram:https://www.instagram.com/ryosukeabe/
【営業時間】
Open10:00〜22:00
Close 火曜・第1、第3水曜
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